シノビのこと
ずいぶんご無沙汰してしまいました。
久しぶりのブログ投稿です。
まだお会いしたことのなかった方が、このブログを楽しんでくださっている
ということを知る機会があり、ようやく重い腰が上がりました。
(実際に訪ねてきてくださり、うれしい出会いとなりました。)
さて、最近の野らり暮らりに長期滞在しているのは、とある仔猫であります。
あまりのかわいらしさに、すっかり心を奪われております。
この子が滞在するに至ったまでを、書いてみたいと思います。
お話は、少しばかりさかのぼります。
野らり暮らりの敷地は、以前から、地域で暮らす複数の猫たちの通り道になっていました。
そんな中、ちょっぴり気になる存在が現れました。
なんだか堂々とした様子で、たまに外のデッキで座って休んだりしている黒猫です。
毛並みは荒れ気味、鋭い目つき、ワイルドな雰囲気をまとっており、これは野良に違いない。
よく見ると、お腹がややたるんでおり、お乳が目立ちます。出産後の母猫か…
近すぎず遠すぎず、彼女はいつも絶妙な距離感を保っていました。
季節が緩み、わたしたちがデッキで夕食をとることが増えてくると、
なんとなく誰かに見られているような気配を感じるようになりました。
しかし、周囲は暗闇。
ふと、やまちゃんが懐中電灯でカチッと暗闇の中の、
木の影でさらに暗い部分を照すと、言いました。
「おる。」
鋭く光る二つの眼。
さてはあの黒猫。
そこで、食べ物を少し、灯りの下に置きました。
…ずいぶん待ちますが、何も起こりません。
諦めて食事を再開してしばらく、絶妙なタイミングで黒い影がシュッと現れ、
置いておいた食べ物の端っこ部分が消えました。
そしてそこにあるのは、再び、ただの暗闇です。
これは、まさに忍びの技!
そんなこんなを夜な夜な繰り返し、決して私たちの目の前では食べる姿を見せない黒猫。
夜の漆黒に完全に溶け込む彼女のことを、わたしたちは勝手に”シノビ”と名付けました。
徐々に、シノビは距離を縮めてきました。
とある夜には、友人とともに庭で満点の星空を見上げながら
あれこれおしゃべりしていると、闇の中にあの気配。
さっと灯すと、寝そべってリラックスした様子のシノビがいます。
まるで会話に加わっているような雰囲気。
わたしたちが場所を移動すると、一定の距離を置きながらも
ちょこちょこと黒い影がついてきました。
わたしたちのそばにいてくれるのは、食べ物のためだけではないのかもな、
孤高に見える彼女も、ぬくもりのようなものを求めているのかな…
シノビのことを、この場所をシェアする仲間のように感じた夜でした。
とはいえ、ご挨拶はいつも「シャーッ」という警戒する鳴き声です。
それでも心を少しずつ許すようになってきたシノビは、
自分の2匹の赤ちゃんたちを野らり暮らりの敷地内に連れてきたようでした。
母屋から離れた畑の、材木が積んであるあたりで、
チラッチラッと小さな姿を見かけるようになったのです。
そっとのぞくと、赤ちゃんにお乳をあげている時もありました。
でも、母屋のわたしたちに近づくときはいつもひとりで、「シャーッ」とご挨拶。
子どもたちのことは、さすがにわたしたちに近づけるのは危険、と思ってるんだろうな。
そんなディスタンシングな関係がしばらく続きました。
ところがある朝、目覚めてデッキをなんとなしに眺めると、
そこにシノビと赤ちゃんたちがいるのです。
驚きの急接近です。
シノビがでんと構えて動じないので、こちらを気にしつつもお乳を飲み続けました。
朝日の中、我が家のデッキで母猫が仔猫たちにお乳をあげている…
その時のなんとも平和な空気は、今も心の中で温もりを持って思い出されます。
この日、シノビは「シャーッ」とは言いませんでした。
それどころか、一日中、子どもたちがこのデッキで過ごすことを許したのです。
小さいコロコロした仔猫がとんだり跳ねたりじゃれあったり、
二匹くっついてお昼寝したり、
それはそれは幸せな空間でした。
でもそれは、この日、たった1日だけのことだったのです。
これが、シノビに会った最後になりました。
その次の日、野らり暮らりのすぐ前の道路のカーブしたあたりで、
猫の交通事故がありました。
つづく。
0コメント