森に溶けた日
さかのぼり日記。
2020年6月28日。
やまちゃんとめぐが山梨県清里に住んでいた頃に親しくしていた、ちょいワル・ダンディーなパン屋さんがやってきました。
さいきんの趣味は野鳥を撮影することだというちょいワルパン屋さん、
聞けば、野らり暮らりへ来る前の4日間、近くの森でおめあての鳥を待ち続けていたけれど、まだ出会えていないとのこと。
また翌日も行くというので、ちゃっかり便乗して森へ行くことにしました。
野らり暮らりの近くにある"御池野鳥の森”は、四季折々、さまざまな野鳥が観られることで有名で、全国各地から愛鳥家たちがやってきます。
パン屋さんが粘っていた森の中の”観察小屋”へは、お散歩がてら行ったことはありますが、その中で長い時間過ごしたことはありません。
なんてことのないただの薄暗い小屋だと思っていたわたしたち。
たいして野鳥に興味あるわけではないし、そんなに長時間そこで過ごすなんてムリムリ、すぐに飽きるだろうから、適当に帰りますね〜なんていいながら、小屋の中の丸太の椅子にそれぞれ腰掛けました。
おめあての鳥は、”アカショウビン”。
てがかりは、聞こえてくるキョロロロロ〜という鳴き声です。
息をひそめて、耳をそばだてて、1時間、2時間・・・
3人それぞれに別々の窓の外の緑をぼや〜〜〜〜〜〜っと眺めながら、ただただ耳に集中し続けます。
あちらからやってきてこちらへ戯れながら去って行く鳥たちの声、
木々と風の出会う音、
鹿のよぶ声・・・
そうしているうちに、なんだか森にとけていくようです。
このまま動きたくない〜という、冬の朝のお布団の中のような気持ちよさ。
からだの疲れや、あたまの中のもやもやが、ふわふわ流れ出すようでした。
さっさと帰ろうと思っていたけど、もうしばらくはここを離れたくありません。
パン屋さんが4日間も出会えなかったのに、そう簡単に出会えんやろうなー、まいっかー・・・
そうして待つこと約5時間。
そのときは突然やってきました。
鳴き声も遠ざかったきり聞こえてこないので、3人でなんとなくおしゃべりしているときのこと、
パン屋さんの動きはすばやかった!
「きた!」とカメラに向き直った先に、現れました、アカショウビン。
小屋の前の池のほとりにちょこんと留まって、キョロキョロしながら、時折じゃぶんと水に飛び込みます。
ぶるぶるっとからだの水をはらい飛ばしては、羽根をひろげてくちばしで毛繕い、そしてまたキョロキョロ・・・
逃すか、とばかりに、興奮しながらひたすらシャッターを切る、カメラ小僧ふたり。
直接見ていたい派のめぐは、双眼鏡をのぞいたりしながら
「ひゃああああ、かわいい〜!かわいい〜!」と思わず口をついてでてきます。
自然の造形というのは、どうしてこんなにも美しいのでしょうか。
5分くらい、そうやって過ごして、飛び去って行きました。
こうして、すっかり鳥の撮影に魅了され、パン屋さんのカメラがとってもうらやましくなったやまちゃんは、また新しいカメラが欲しくなりました。
よき出会いに恵まれて、帰り道は足取りも軽いです。
ちょっと寄り道していこうか、と、小池方面へ。
御池へは何度も行っていますが、小池ははじめて。
あまり人は寄りつかないのでしょう、御池よりもよりワイルドな雰囲気が漂います。
水を飲んでいた鹿の群れがこちらの様子を伺いながら去って行き、ざわざわといろんな鳥の声につつまれます。
ちょうど蝉が脱皮しているところでした。
野らり暮らりで暮らしていると、あたり前のようにいろんな声が聞こえてきます、
あーきれいな声の鳥が鳴いてるねー、と耳を澄ましたり、その姿を双眼鏡で眺めはしても、どんな鳥だろうとか、なんて名前だろうとか、考えたりおもいをめぐらすということはあまりしませんでした。
一羽のアカショウビンとの出会いは、そんなわたしたちの日常をほんの少し変えてくれました。
時々気になったら、どんな鳥かな?と調べてみたり、どんな姿で鳴いているのだろう、どんな旅をしているのだろう、と想像してみたり。
すこしだけ、この地球の仲間であるとりたちと、親しくなれたような気がします。
声を聞いて、思い浮かべることのできるたった一羽のかわいいコがいること、それは、ほんのささいなことだけど、ずいぶんとわたしたちの心を豊かにしてくれるようです。
そして、ちょいワルパン屋さんは、自転車やらなんやらおもしろそうなものをたくさん詰め込んだワゴン車で、次のおもしろいことをさがして、さっそうと去って行きました。
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